そういえば、「リベロ」って聞かなくなりました

昔のサッカー雑誌やゲームには、当たり前のように「リベロ」「ストッパー」というポジション名が載っていました。ところが最近の中継では、ほとんど聞かない。センターバック、サイドバック、ボランチ、アンカー、インサイドハーフ。名前の種類は増えているのに、リベロだけ、いつの間にかいなくなっている。

あの人たちは、どこに行ったんでしょう。

誰かが「今日で廃止」と決めたわけでもないのに、気づいたら見なくなっていた。今回はその話です。前回と同じく、練習後の一杯のつまみくらいの気持ちでどうぞ。

リベロは、「自由な人」

リベロ(libero)は、イタリア語で「自由な」という意味です。何が自由かというと、マークする相手が決まっていない。

昔の守備は、基本的に「人につく」やり方でした。相手のフォワードにひとりずつ、こちらの守備の選手が貼りつく。で、その貼りついている人たちの後ろに、もうひとり、誰にもつかない選手を置いておく。それがリベロです。前の人が抜かれたらカバーに入る、こぼれ球を拾う、危ないところを片づける。英語で「スイーパー(sweeper=掃く人)」と呼ばれるのも、この「掃除」のイメージからです。

この形は、1960年代のイタリアで「カテナチオ」と呼ばれた守り方の中心にありました。カテナチオは「かんぬき」という意味で、要するに扉に太い棒を渡して、そう簡単には開かないようにするやり方。その棒にあたるのがリベロ、というわけです。

ただ、リベロは守るだけの人ではありませんでした。マークがないぶん、ボールを奪ったあとに自分で運んで、攻撃を始める役でもあった。西ドイツのベッケンバウアーや、ACミランのバレージなんかが、この役でよく名前の挙がる人たちです。後ろで待っていたかと思うと、突然ボールを持って上がってくる。あの「後ろから出てくる感じ」が、リベロの持ち味だったんだと思います。

ストッパーは、その相方

で、リベロとセットで出てくるのが「ストッパー」。こちらは、さっき言った「相手のフォワードに貼りつく人」のほうです。リベロが自由なら、ストッパーは相手のエースを止める(stop)のが仕事。日本ではこの二人を「ストッパーとリベロ」と並べて呼ぶのが長いこと定番で、昔サッカーをやっていた人ほど、この言い方が体に染みついているんじゃないでしょうか。

ちなみに、いまの中継でこの二人にあたる位置を指すときは、どちらもまとめて「センターバック」です。役割の違いで呼び分けるのではなく、立っている場所で呼ぶ。そのあたりにも、守り方の変化が表れている気がします。

で、なんで消えたのか

一言でいうと、守り方の考え方が「人につく」から「場所を守る」に変わったからです。

1980年代の終わりから90年代にかけて、守備の選手を横一列に並べて、相手ではなく「自分の担当エリア」を守る、というやり方が主流になっていきました。いわゆるゾーンディフェンスと、4人が横に並ぶ「フラットな4バック」です。この時期のACミランがこのやり方で勝ちまくったのが大きくて、そこから世界中に広まった、とよく言われます。

この「横一列」が、リベロと相性が悪い。ラインをそろえるからこそオフサイドが取れるのに、その後ろにひとり残っていたら、ラインが成立しません。それに、そもそも人につかないのなら、「誰にもつかない自由な人」を特別に置いておく意味も薄くなる。ついでに言うと、みんなが前から激しくボールを追いかけて、チーム全体をぎゅっと縮めて戦うようになったので、後ろでゆったり構えている場所そのものが、なくなってしまった。

そうやって2000年代に入るころには、純粋なリベロは、トップレベルの試合からほとんど姿を消していました。誰かが禁止したわけではなくて、勝つチームのやり方をみんなが真似していったら、そのやり方には「リベロ」という枠がなかった。それだけのことだったんだと思います。

ただ、「後ろからボールを持って上がってくる」という仕事そのものは、なくなったわけではありません。いまのセンターバックが中盤まで持ち上がったり、キーパーがビルドアップに加わったりするのを見ると、リベロがやっていたことが、別の名前の中にばらばらに引き継がれているようにも見えます。名前は消えたけど、仕事は残った、というところでしょうか。

というわけで

  • リベロは、誰にもつかず、最後尾でカバーと攻撃の起点をやる「自由な人」
  • ストッパーは、その前で相手に貼りつく相方。日本では二人セットで呼ぶのが定番だった
  • 守備が「人につく」から「場所を守る」横一列に変わって、後ろに残る枠がなくなった
  • 誰かが廃止したのではなく、勝つやり方を真似した結果、名前ごと使われなくなった

次にゲームや昔の雑誌でポジション名を眺めるときにでも、思い出してもらえれば。

それじゃあ、また蹴ったあとで。